[けれどそうして生きることができたのは、捨てられるほどのしがらみしか自分は持ちえていなかったからこそだ。]
……兄と弟、渦中の二人は何を思うや。
[厳格な兄君と聡明な弟君。王たる資質を備えた二人。
平民も重用する軍部と、古くから国に尽くしていると自負のある貴族。
南方は戦火から癒えきらずに燻りをまだみせている。
北方は護国の城塞に守られて堅固ではあるものの、守りを緩めることができるはずもなく。
大きな箍が外れてみれば、火種になりかねないことばかり。急激な変化はきっと軋みを呼ぶのだろう。
旅人は鼻が利く生き物だ。
嫌な気配を感じ取り、早々に去ろうとしているご同業もいた。長年頼りにしてきた己の勘も、去るべきだ、と告げている。
けれど、今しばらくこの地で行く末を見届けたいと願うのは。いまひとたび、歌を届けることのできなかった駒鳥から王様への、せめてもの手向けだった。**]