[検査を空け、実験と称した実戦は恙なく終わった。
体が覚えているのと、本を読むような記憶ではない生々しい体験に精神が昂揚していたからだろう。
だが、違和感もあった。
どこか背中が寂しいとも感じるような。振り向いたとき誰かがいないような違和感。
その違和感の正体は、ある手紙によってわかることになる。
行商人から渡された手紙。
どうやらこの行商人とは顔なじみであったようで、その手紙の差出人である"兄"がいないときは、自分へと渡していたらしい。
『シメオン』と二年前に失踪したものの名前を口の中で転がしたとき、懐かしい響きがあったのを覚えている。]