[子守唄を唄い終えれば、母君と膝に抱かれた弟君とが揃ってこっくりこっくりと舟を漕いでいた。
おや、眠られてしまったようですね。
何か静かな曲を歌いましょうか?
[母子の隣に座るまだ幼い兄君への問いかけは、やんわりと断られたのだったか。起こしてしまうと悪い、と。記憶が正しければそんな理由で。
小さな兄君がみせた大事な人への気遣いに、頬を緩める。]
それもそうですね。
では私は、本日はこれにてお暇させていただきます。
また次の季節が巡る折にでも、お伺いしましょう。
[小声で囁き兄君へと恭しく礼をして、音を立てぬようそっと退席する。
それは窓から差し込む日差しが母と子らを優しく包んでいた、遠いいつかの春のこと。**]