― 回想 ―
[――数年前――
旅を続けていたニコラスは、知らない土地で、知らない人々に会うのが楽しかった。
自分が相手を知らないのはもちろん、相手も自分のことを知らない。
その時々の出会いが楽しく、一期一会で後腐れない関係が気楽だった。
ニコラスはほんの好奇心から、ある村に行く前に女装をし、性別を偽ってみようと考えた。
誰かを騙そうとか、そういった他意は一切なく、ただの気紛れ、ほんの若気の至りだった。
旅先で知り合った女性に化粧まで施してもらい、その女装は完璧だった。
―――完璧すぎた。
彼はその土地の権力者に見初められ、無理矢理祝言を挙げられそうになり、ギリギリの所で逃げ出した。
権力者は絵師に人相画まで描かせて探させたが、ニコラスを見付けることは出来なかった。]