― タルボシュ城陥落後 ―
[山をふたつ、飛び越えるのには翼を使った。
けれど残りの道程は、ゆるりと地を駆る馬車によって]
もう近いかしら
広い街道を使うべきだったかな?アズリウ
[タルボシュ領も山岳地帯。その道を進むには些か華奢な造りの二頭立ての馬車からミリアムは顔を覗かせた。
うなじまでの長さの金髪は結い上げもせず自然に遊ぶまま。薄化粧の唇に指をあてがい、車窓を眺める。
ドレスばかりは、腰まで細やかなレース意匠の背面や袖の金刺繍が美しい。
そのドレスの布地も、車を引く馬の毛色も、宵闇にほどける漆黒だった]
[鴉羽色が、この眸には艶やかに深い青藍に映るのだと言ったとして、人間達の誰が共感するだろう]