[竜は王子を背に乗せると、堅牢に作り上げた結界を自ら解いた。
凛と清浄に満ちた空気が、柔らかに親和を帯びた物へと変わる。
あちこちに潜んでいた小さな生き物が、変化を過敏に感じ取り周囲を見回していた。
それを見止めそして竜は空高く飛び立つ。]
(さらばだ、我が古巣)
[長く住んだ土地に胸中で別れを告げた。
解かれた結界はそのままにする。やがては結界をすり抜けていた小さな生き物たちが、魔力に満ちた主のない土地に勝手に住むだろう。
王子が望んだ地へ下ろすと、竜は暫くして再び人の形を取った。
目立つのはいいが、目立ちが過ぎるのは鬱陶しいのがその理由だった。
だが別れを告げた地へ帰る事はせず、
竜にはとても見えない老婆が一人、王子の軍勢に紛れ込み、静かにそこに居る*]