[彼女は、自分の身の上については何もいわなかった。
彼もまた、何も聞かなかった。体調を崩し、帝国の病院で闘病するも――あの年の春が、シュヴァルベへ迎える最期になるだろう、と医者には覚悟しろといわれていた]
「私は、良き時代に、良き教え子たちに囲まれて幸せに暮らした。
お前も、好きなように生きなさい」
[老皇帝の死後すぐに、眠るように息を引き取ったことは、彼の人生に於いて最後まで暗い時代の到来を知ることなく、よかったのやもしれない]
[葬儀は、シュヴァルベで行い、シュヴァルベの地に彼の墓をつくった。
「幻の花火」などの彼の魔器と科器を組み合わせた功績を、カサンドラはこう評した。
「夫は、生まれは帝国ですが、生粋のシュヴァルベ人でした」
[貴方は違うのか、と問われれば、頷いて――]
「私には、帰属するところがないのです。
私の親は、科学ですから」
[冗句を言われたと笑うものが多い。事実、彼女は笑って嘯く――]