[己のうちでぴーぴー騒ぎ続ける小物の声から意識を外し、吾はかつて相対した女へと視線を向けて、声を掛ける段になって名前も知らぬことに思い当たった。
故に言葉を紡ぐより先に、杖を一振り女に向かって投げつけて──…
そして、その一撃は女の背後より悲鳴を挙げさせることに成功した。
こちらを警戒しすぎていたのだろう、女の気づけぬ二人の敵が、その背後にあったから。
杖の着弾を確認するよりも先に、吾は女との距離を詰め、そこからもう一方へと斬りかかり。
関係性は捨て置いて、男女の逢瀬を邪魔するなんて、情緒のない愚物共なんて吐き捨てつつ、赤く咲いた花の上、女の隣に降り立ったのだった。
割り込んだのは己の方であることを棚に上げた吾は、返り血で濡れた姿のまま、女へと手を差し出して]
──見つけたぞ、女
[にこりと笑おうと務めるのだが。
己の今の姿を顧みないその笑みは、彼女が手を取る未来など、とてもじゃないが想像できるものではなく]