[吟遊詩人を取り囲む町の人々。その最前列に陣取る人々の中に、上質な服を纏った青年の姿がある。上品な、但し貴族には見えない程度の緑色の服。髪を隠すための布を頭に巻き、聴衆の最前列に蹲る姿は、良いところの商人の息子のようにも見えるだろうか。
ウェルシュには、たびたび王宮を抜け出してはこうして街中を歩く趣味…悪癖があった。平穏のなせる業ではあったが、身の回りからあまり褒められたことがないのも事実だ。ともあれ、そのおかげで気軽な変装は板についたものだ。
今もこうして人々に紛れていれば、第二王子と見破る者はそう多くないはずだ………多分。民の中には、少なくとも。]
ディルドレ。
[顔馴染みの老吟遊詩人に微笑みと共に声をかける。
金貨を入れ物の方へ放ってリクエストを口にした。]