この船で乗り合わせた後にも、君を殺さなかったのは――、
ただの、ちょいとした気紛れだっただけなんだよ。
[ ――直後。 ]
[ 獣の前脚を刃が寸断しようと迫って、
未だかつてない激痛に獣の相貌が歪むことになるが、
後ろへ退くことをこの時の獣の本能は望まなかった。 ]
[ 刃を振り下ろした彼の――左の腕。
柔いその部分に開いた顎門を押し当てて
力の篭る限り、思い切り乱暴に噛み砕く。>>38 ]
[ 食い千切るまではいかずとも、
自由にならない程度には傷付けただろうと
確信できるような確かな手応えと赤い味。 ]
[ 右脚を細い焼き鏝で撫でられたような痛みを感じながらも
後退する金色の獣は狂気と禍々しさを孕んだ貌で嗤っていた。* ]