― クリーク砦 ―
[ふ、と。不意に圧力が消えた。
見れば素早く体制を崩し───いや、わざと変えた男>>36が、こちらへ向け足を踏み出している。
そうと頭が理解するより早く、男の身体もまた動いた。
伸びた彼の左腕、それを逃れようにも間に合うまい。
ならばと逆らわず、槍の柄に力が掛かる刹那、右の手で手前にそれをぐいと一気に引く。
上手くすれば、彼の身体ごと引き寄せられようか。
依然として戦う男らの周辺は、先とは違う喧騒に包まれている。
弓兵を狙う正規兵や傭兵を、歩兵が一気に突き飛ばした。
傍らにあった工兵が、ここぞとばかりに握った砂をぶちまける。
たまらず目を覆った兵を尻目に、力を合わせた彼らは逃げ出していく。
兵というより民のような、そんな形で、砦に詰めていた兵らは逃げ出しつつある。男も早く去らねば危ういが、さて目前の男がそれを許すか。]