この酒場には女神の頼まれ事で幾度と無く訪れている。しかし、御存知の通り拙めは下戸でな。故に、いつも昼間に用件を済ませてそそくさと引き返すのだよ。その日に限っては夕暮れ時、開店には少し早い時間でござった。店からピアノの音がした。音こそ優しく美しいが、何とも物悲しい調べでな。扉を開ける音で妨げになるのも申し訳無く、扉から漏れ聴いておった。後日、それが鎮魂曲だと知った。(1/3)