― 昔話・北の隣国にて ―
[冷たい風、乾いた大地に舞う土埃。険しい山々の奥深くに眠る鉱物を採取し、他国から食物を買い付ける。けれど飢えを満たすには容易ではなく、明日を生きるために民たちが国に管理されることを受け入れざるをえなかった国。
その北国の飾り気のない堅牢な王城に招かれて詩歌を披露する機会を得たのは、誰に誘われたからだったか。今となっては思い出せない昔の話。]
褒美、でございますか。
旅の吟遊詩人としましては、諸国の民達が満ちることが唯一の望みでございます。
歌で心は慰められても、飢えを満たすことはできませぬ。
衣食が足りねば心は荒んでゆきましょう。
民が満ち、巡り渡る街々で青空の下で心よく唄うことができるのであれば、これ以上の褒美はございませぬよ。
[大仰に褒める声音に熱はなく、あまり色の読めぬ方々だと内心で首を捻る。]