[ともあれ獲物は横たえられ、天幕の中に安置されていた。
酷く目立った傷はなく、血が流れ汚れているわけでもない。
多少衣服や肌が汚れているようではあるが、これはむしろあの場で戦いを演じたにしては軽微と言っていいだろう。
ただ。その胸元には、漆黒の楔が打たれてあった。
紫じみた暗い魔力を帯びた楔だ。
人の手の触れられるものではなく、人の手で抜けるものでもない。
僕の首元の石にも似てやや異なるその魔石の塊こそが、ロー・シェンを沈黙の檻に捕らえ続ける楔であった。
楔は僕の首の石同様、シメオンの意思によらずに外れるということはない。魔将の魔力続く限りそこにあり続けるのだ。
───つまり、永劫に。]