― 昨晩・宿 ―
[少女はひとりぼっちだった。
何処からともなく、バイオリンの音を聞いた気がした。>>0:659
新緑の村の音楽家だと誰かが発すれば確かに彼が紡いだメロディと同じだった事に気が付く。
きっと、此処に車で羊飼いが口すざんでいた歌が耳にこびり付いて離れないのだろう。
何故だか懐かしい気持ちになった曲の名前を彼に訊いておくんだったと少女は後悔した。
甘いケーキを舌に乗せて、
少女は同朋にしか届かない声でそっと呟く。
ねえ、何処にいるの?
いつになったら、わたしを迎えに来てくれるの。
たくさんのひとが居るのに、
此処に居る誰にも少女の声は届かない。]