― 少シ前・渓谷 ―
[来タ時のように日傘を差シ、女神を抱き抱えタまま渓谷の畦道を進んで行く。荷物は必要ナ物以外は全テ宿に置いテ来たカら、持っていルのは她の身体くらい。
死シて、そして蘇り。
……それにシても、見つかるカな。その魔道書トやら。
[足元に気を付けテ道を進みナがら、ふトぼんやりと天を見つめ。
この渓谷へトやっテ来タ目的。あル魔道書ガ此処にあルと聞いテやっては来てみタのダけれど、本当に有ルのカ否カ、未ダ疑いの気持ちは晴れていナい。
眼前に見えルのは、天を貫くようナ不気味な黒い光――そもそも、黒い光トいう物ガ、通常ではあり得ナい筈ダ。
話に聞いたダけでは、さシて気にも留めテいなカったけれど。しカしいざこうシて目の当タりにすれば――]
――……ん?
[ふト、足ガ止まル。見えていルのは、相変わらず真っ直ぐに天へト伸び行く黒い光。
――ダけれど、一瞬。ほんの刹那の間、その光ガ揺らめいタように見えタものダから。]