[沐浴場から見える壁にも茨は蔓を伸ばしている。
揺れる白い花を眺めていた目が、動くものに吸い寄せられた。
リスが一匹、茨の蔓を駆けまわり、花をつまんで食べている。
恐れ気のない小動物の様子に、昔の記憶がひとつ呼び覚まされた。
それは、かつて森の中であったこと。
濃密な緑の香りと蒼い月の光に彩られた記憶。
駆けていくリスを追ったのか、導かれたのか―――]
君はもう、美しく成長しただろうね。
イチイのように伸びやかに、伽羅のように薫り高く。
ああ……。
[今すぐ探し出して、手折ってしまいたい。
幾度となく繰り返した衝動を噛みしめ、甘く切ない痛みに浸る。
耐えることもまた楽しみのひとつ。]