[戯れるように水を掬い上げた掌を上に伸ばせば水は細い流れとなって腕を滑り落ち、水滴が胸の上で跳ねた。地下深くよりくみ上げられた水は冷気を帯びていたが、一度死した身に体温など有って無いようなもの。人間ならば冷え切るような水でも気にはならず、湯の出る浴室もあったが、城主はこちらを好んだ。水の上に漂わせていた体を不意にひねり、抜き手を切って泳ぎ出す。浴槽を一周、二周、三周、と気の済むまで泳いでから立ち上がり、ブラインドが上げられた窓辺へと近寄った。]