―朝・自室―
[昔の夢を見た。
まだこの村に来たばかりの頃。
母は母で何かと忙しく、しかも女手一つの余所者ということで色々と気苦労もあったのだろう、こちらに手が回らないことも多かった。
そんな中でなかなか村に馴染めなかった自分を構ってくれたのが年の近い幼馴染達だった。
幼い頃は「泣き虫」とからかわれた少年も、年を重ねるに連れて立派な悪ガキに成長したものだ。
母が死にふさぎこんでいた時期も、彼らの存在は支えになったものだった。
尤も、人の罵り方や喧嘩のやり方なんて余計なことの大半も、彼らと遊ぶうちに教わったのだけれど。
…夢の中で若い頃のシモンとディーターの姿が交互に浮かぶ。
ああ、これはいつだったか、彼らがそれぞれ村を出て行った時のことだ。
――あの時、自分は何と言って見送っただろう。]