[向かう先から、静かな足音が聞こえてくる。しっかりと地を踏みしめるように歩くのは誰だったろうか。
少しだけ期待を込めて顔を上げれば、予想に違わぬ人物で。
かつてのように呼びかけようとして、頬に走る朱線に気付く。
それに少しの間視線が寄せられたが、意思の力で抑え込み、]
こんにちは。タクマさんもそのお姿になられたんですね……。
…ご気分は大丈夫ですか?
頬は痛みませんか?
深い傷ではないようですが、手当をしませんと…。
[いざ目の前にすると言おうと思っていた言葉が出てこない。
迷った末に、当たり障りのない言葉を告げる。
といっても心配する気持ちも本当だ。
ゲルトは割合すぐに今の状態を受け入れていたようだが、自分はこの姿を受け入れるのに時間がかかった。どうも個人差があるようだ。
頬の傷が爪に因るものとは容易に知れた。自分で傷つけたのだろうか。最後まで悩みの中にあった彼の心は悲鳴をあげていないだろうか。
傷に障らぬよう、そっとそこに手を伸ばす。*]