― 銀色の記憶 ―
[それは故郷の地がまだ「国」という名前を持っていた頃のことです。
その頃の私はお転婆で、課せられたお稽古事や作法の時間を抜け出しては歌を歌っているのが好きでした。
習ったばかりの覚えたての歌を陽の当たる中庭で歌う。
実のところ、両親やお祖父様は気付いていたのでしょう。
けれども、咎められることは一度もなくて。
許される限りの時間を拙く歌う時間に当てていたのでした。]
[或いは。お祖父様にお客様があれば披露することも、ありました。]
[けれど、その日は邪魔をしないようにと厳重に言い含められていたので、幼心に大事な商談>>21があるのだろうと、商談の場から離れた庭で控えめな声で自由の歌を口遊んでいました。]