負傷兵 シモン

― 山道→宿まで ―

［列の最後方から、宿へ急ぐ人々を注意深く観察する。
　
　見極めなくてはいけなかった。
　この村に来てまだ数刻、見知った顔も僅かしか居ない。
　圧倒的アウェイのこの状況で今後立ち回って行くには、村人逹の人柄、序列、人間関係…そういう情報を正しく知っておく必要がある。謂わば生存戦略だ。

　だが、この現状でそんな事まで考えているのは、はおそらく自分だけだろう。

この8年で自分が見知って来た限りでは、人狼と一口に言っても色々あって、外からやって来た獣が誰かに成り変わっている事もあれば、元々人間として暮らしてた奴が、ある日突然"覚醒めた"パターンもある。

――今回は恐らく、後者のパターンだろう。
あの岩鳴きと白い光の後、島の空気が変わった>>13
かつての人狼騒動で感じたのと同じ、
なんとも言えないヒリつく空気だ。


　だが、きっとこの村の人達は、もう"始まっている"事に気がついていない。そもそも、ここは狼を神と祀る島だ。狼と人との友好を信じる人々には、人狼が人を襲うという発想自体が無いのではないか。

そんな中で『恐らくこの中に人狼に覚醒めた者が居る』などと切り出したところで、村人達に響く事は無いだろうし、そのせいで変に疑われてまた首に縄をかけられる事があっては、あまりにもリスキーなのだ。

　だから、見極めなくてはならない。
　場の状況と、タイミングを。
　
　己の目的を果たすためにも。*］