[ 少年の頃、英雄たる父は憧れだった。
いつかは父の名を正式に継ぐのだと、それに相応わしくあれ、と、母にも親族にも期待され、その期待に応えねばと、思ってもいた。
けれど、高く見上げるばかりの英雄よりも、目の前で卓越した才を見せつけ、その技を直接教えてくれる年近い先達に、若い心が、より強い敬愛を抱いてしまったのは無理からぬことだったろう。 ]
...士気については、先ほども言った通り保証する。
[ 男が年少者を指導する立場になった時にも、手本にしたのはフェリクスだった。時折は、効果的な訓練法や、指導に関する悩みを、彼に相談したこともある。
その相談に、気安く、けれど真摯に応じてくれていたフェリクスが、どこか不自然に距離を置き始めたのは、彼が当主を継いだ後のこと。
同時に広まった、怠惰な当主である、という噂は、やはり納得のいかぬものだったが、なぜ?と、当人に問うことは未だ出来ていない。 ]