……ラクシュ!
[肩越し、振り返って呼ぶのは先ほど飛び降りた漆黒の愛馬の名。
振り返る隙を突かんと跳びかかって来た魔物を、くるりと返した石突きの一撃で弾き飛ばし、駆け寄って来た愛馬に飛び乗る。
見回す視界、目に入るのは、明らかに劣勢な戦況。
浮かぶ苛立ちは、ぐ、と飲み込んで]
聞こえているか!
全軍、撤退!
ホートン砦を放棄し、速やかに後退する!
……無駄死にはするな、この後退が、次の勝利と栄光への導と刻め!
[叫びがどれだけの友軍に伝わったかは知れない。
だが、ここで無駄に命を散らすは愚と見なすから、撤退を躊躇う事はない。
……もっとも。
そう、指示を出した当の本人の撤退が最後だったのは、彼の──リエヴル・リンドブルムの気質を知る者であれば説明するまでもない事だろうが。*]