―アチコ―村前―
[此処まで来るのに、さて。どれだけの時間がかかったでしょうか。
ドロシーは殆ど自分の足で歩いてはいませんが、それと長旅の疲れとは別のお話。
もともと蝶よ花よと育てられたくちですから、気疲れへの耐性は、あまりないのです。
うつら、うつら。
従者の腕の中、ドロシーは船をこぎます。
風にゆれる髪は、すりよったせいでいっそう彼の方へと流れたでしょうけれど。
おねむなドロシーは、そんなことには気付けません。
――ですが]
おんせん。
[従者の声>>23に目を開け、案内の看板が目に入れば、ぱちり。大きくまばたきしまして、興味ぶかそうに瞳をかがやかせました。
温泉とは、どんなところかしら?
折角こんな所まで来たんですもの。どうせなら、ぜひぜひ経験しておきたいものです。
……もちろん、彼が水を苦手とすることは知っていますけれど。
やりたいことを我慢するのは、性分ではないんです]