― 早朝 ―
[わざと従業員部屋には向かわず、表口から外に出てパン屋に向かった。自分が第一発見者になったとき自然に振舞える自信がなかったし、他の人に見つけさせた方がいいと思ったから。もし気付かなかったのかと指摘されたら、パンを作ろうと急いでいたからと答えようとシミュレーションした。
従業員部屋で人狼に繋がる痕跡―足跡は消したし、獣の毛が落ちてないことも確認した。ゲルトの体が獣の牙で食いちぎられていることから人狼の仕業であると明白に分かっても、そこからは誰が人狼かは分からないはず。深夜のことを思い出しながら、大丈夫と自分に言い聞かせながら、いつもの通りパンを焼く。
ゲルトがレジーナから託されたマスターキーも、人狼に関する本と同時に従業員部屋で手に入れた。これで部屋のドアを破る必要はないから、襲撃前に発見される危険はぐっと減るだろう。]