― アーヘンバッハ邸、自室 ―
[はらり。と、軽く紙を捲る音が静かな室内に響く。
部屋の主は白銀の髪を緩やかに纏め、書面に視線を落としていた。
私室であるのだが、この部屋は執務室らしき趣が強い。
事実、彼が手にしているのも公的な書類である。
急ぎ復興を目指すランヴィナスには、仕事も問題も山積みだ。
それらを片付けるに、男は今も寝る間を惜しんで働いていた]
…、おや。
[ふと、顔が上がった。
赤い光が窓から差し込んできて、手元を眩しく照らしたのだ。
見れば、陽が随分と傾いている。
相当な時間をこうして過ごしていたことに気がついて、苦笑した。
思えば昼も摂り損ねたのではなかったか]