ー渓谷ー
[不味い。
渓谷へ向かうと、更にその中にある森へと足を踏み入れる。
姿を隠しながら様子を伺おうとした刹那、黒い光が渓谷全体を覆い、周囲の植物でさえも瘴気を帯びた魔物に姿を変えた。
リヒャルトは無事。
コンスタンツェの腹には、大きいけれど浅い切り傷。
態勢を立て直そうと、木の幹の空洞へと二人分の体躯を滑り込ませたのだった。]
不味い。
[道中に狩った小さな鼠の魔物齧りながら外を伺う。
腹の傷が癒えるのを実感した。
怪我をしても治る。
コンスタンツェだけならば、まだこの中を掻い潜っていけるかもしれない。]
……リヒャルト、今回は此処で待ってた方がいいと思う。