[――本当はそんなものはただのエゴだ。
もしいつか、伝承通り「人狼の血」が完全に目覚めることがあれば、皆を噛み殺すかもしれない。
だから、真に彼らのことを思うならさっさと出て行くべきだったのだ。
そんなことは薄々分かっていた。けれど。
…もしかしたら。自分さえ理性を保つことができるなら。
共に生きることもできるのではないかと、信じた。
幸いその日以降は本能を抑えられなくなることもなく、人を殺してしまうことはなかった。
だからこそ、このままの生活が続くなら。やがて己の出生など忘れ、村の中で平穏に暮らしていけるのではないか、なんて。
そんな一抹の希望を抱いた――**]