ーー夜半ーー
[静かに、身を起こす。
勘が働いた、と言えば聞こえはいいが。
おそらく常人には嗅ぎ取れないだろう濃厚な香りに、叩き起こされた]
…いる。
[昼間、ディレイ中尉に嗅ぎとったのと同じ。
かつて嗅いだ、蠱惑の香り…。
発症者が、近くに、いる]
外か?
[静かに扉を開け、夜の帳に身を滑りこませる。
風下に身を置き、ゆっくりと近づけば…。
目にした光景は、連れ立ち語らう二人か。>>15
常人が目にしたならば、発狂するかもしれない凄惨な光景か。
一部始終を見届け、再び静かに部屋に戻る。
僕の役目は、捕らえることではない。
今いたずらに報告すれば、犠牲者が山積みになりかねない。
狼化病キャリアで服薬するものは多くても日に三度。
夜半では、予防薬の効果は弱くなる。
早朝、報告に走ることに決め、完全に覚醒してしまったが、とりあえずは目を閉じることにした。]