― 翠の記憶 ―
[まだ7つか8つの頃だった。
父の船に乗せられて、いろいろなところを回っていた。
ある日、寄港した国で父と共に大きな屋敷へ行った。
「父さんは大事な話があるから」と屋敷の使用人に預けられ連れられて行った中庭に、彼女がいた。
小川みたいにきらきらと光る翠の長い髪と、
お月さまより真ん丸で綺麗な金の目。
柔らかな頬も細い指先もほんのりと桜色で、
小鳥みたいにころころと良く通る声で歌っていた。
その女の子に近づくのが怖くて、
ひょっとしたら、妖精みたいに消えるんじゃないかと心配で、
しばらく中庭の入り口で見ていた。
そうしたら、彼女がくるりと振り返ったんだ。]