― 回想・出立の日 ―
[兵役により、家を離れることになった日。
見送りには、両親、使用人、そして兄――セドリック・アルニムが顔を見せていた]
『――帰って来たら、お前が家の跡を継いだらどうだ?』
[杖に体を預けながら、兄は柔和に微笑んで提案した]
『俺は体がこんなだしさ。
お前だって貴族としての教育は受けているし、兵役を終えればそれなりの箔はつく。申し分ないだろう』
[兄の身体に関して、いろいろ噂されているのを知っての発言だろう。
社交の場には出来る範囲で顔を出していることもあり、兵役逃れの嘘とまで言う者は流石に減ったが、それでも単純に不安視するような声はある。
眉を下げて笑う兄を見て、セルウィンは鼻を鳴らし目を逸らした]