[血だ、血だ……!
間違いなくゲルトをくるんでいるシーツにはそれが滲んでいる。
そうしてそれを確認して、辺りに立ち込める匂いに気づいた。
──これは
死臭──……!]
な、何が、どうなって……?
[亡骸となったゲルトにシスターとして十字を切る事も忘れ、震えた声を洩らす。
死体を見た事がないわけじゃなかった。
最初に見たのは、母。
次に見たのは、軽くお付き合いを断った酒場のバーテン。
そして最後に、このゲルトの亡骸の前に見たのは……。
自分を身請けしてくれると言った中年貴族の、その妻にあたる女の死体]
[彼女の死体は、自分が見つけたのだ。誰かに呼び出されて。まるで腹部を喰いちぎられた様に抉られ、そうして第一発見者の自分が『人狼』とあらぬ疑いをかけられ、糾弾される事になった。
優しくて、この男とならそれなりに穏やかに人生を送れるのではないかと夢見た中年の男でさえ、リーディアを妻を喰い殺した化物として扱った]