ディー兄ィ………
[まだ見えぬ砦の方角を見据え、懐かしい名を唇に燈す。
何年ぶりかの響きは少々気恥ずかしくすらあり、
自ら口にしておいて、ひとり頬を掻く。
思えばこの6年の間、自ら連絡を試みたことがなかった。
命の恩人が養父となった日に、一度きりの文を託したのみ。]
"これから暫く、州都に住むことになりそうです"
"でも、いつかきっとまた戻るよ"
"皆の、貴方の、役に立てるようになって 必ず"
[元居た集落の同胞達からは定期的に文が届き、彼のことは伝え聞いていた。
それらの返信には自身のことも書き記して送っていたから、
此方の近況ももしかすると届いてはいるのかもしれない。]