― ジラルダン帝国・帝都 ―
[皇帝の息子・ヨアヒムが騎馬を駆ってゆくその後方を、大きな黒狼が追ってゆく。
これもまた衛兵の警戒を呼び覚ますことのない光景だ。
この狼──あるいは男の姿をしていることもある──は、最近、「無貌の影」という能力を身につけて、そこにいても人の記憶に残らないようにしている。
戦場においてもその能力を行使すれば奇襲し放題なのだが、やった試しがないのは、勝つよりも好きなことがあるからだ。
今、ヨアヒムを追っているのも、城の中にいるより騒ぎに遭遇する率が高いと踏んでのこと。
護衛とか、そんな親切なことは考えていません。]
。oO( だって、あれの子だし )