― 遠い記憶 ―
[その音色に最初に触れたのは、遠い時。
都市の一角、祖母と二人で慎ましく暮らしてきた幼い日。
祖母がピアノでその旋律の一部を偶然爪弾いているのを聞いたのが始まりで]
「……これは、おばあちゃんの宝物なのよ」
「たくさんたくさん、大切なものをくれた『蒼い風』が残してくれたもののひとつなの」
[そう言って微笑む祖母は優しくて、けれど、どこか寂しげで。
けれど、その寂しさの意を問う事はできぬまま。
その頃には既にピアノに馴染んでいたから、曲を教えて、とせがみ──その旋律と、歌を聴いた]