――早朝:敷地外縁――
[早朝、変わらず悪夢を見たカスパルは自室から出て夜勤の兵に声をかけながら、野外訓練場へと歩いて行く。
血肉の甘い香りにもう忌避感はなく、過去の夢はただの夢だったから、硝煙で紛らわせる必要性を感じず、体だけ動かそうとしたときだった。
蒼白になった部下に声をかけられ、彼と共に現場へ赴く。
鉄錆の臭気。飛び散った血痕。
一輪だけ添えられた薔薇の花。
肉片の断面や抉られた胸部は、刃物によるものではない。
ソレが何であるかカスパルは一瞥でわかったし、己がやるべきことを理解するのも容易かった。]
……俺が検死と現場検証を行う。
[幸いその場では一番地位が高かったので、現場を仕切る。
完全に握れるのは初動だけだ。速度が命である。
肉片となったかつての上官を見下ろし、そこに「痕跡」がないかを凝視する。髪、ボタン、階級章、服の切れ端。個人特定を容易にするそれらがあれば、調べる振りをして手の中へ握り込む。
乾いた血と白く濁った眼からも、死亡時刻は明朝よりは夜だろう。>>15
死因は大量出血と――喰われた、事によるもの。とても「人」の手に寄るものではない。]