― 太古の樹海 ―
[そして、入り込んでしまったのは深い森。
どう見ても危険な地域だ。
杖をつきながら、もし、野犬や獣の類が出れば、
今までとは違い、魔界に干渉してしまった身は、その存在を弱肉強食に組み込まれてしまうかもしれない。]
――……
僕が滅びることで、彼が、そして、家が再興するのであれば、
もう命など惜しくはないのだがな。
[そんな達観したことを言い始めたのは、怪我をしたことで、貴族としてのステータスを誇る寄宿学校への入学を断念し、傾き始めた家から幾人もの雇い人を暇に出し、
そのうちに疲れきったかのように亡くなった父、
父亡き後、実家に帰らざるえなくなった母、
兄弟もなく、己自身のみのために、勉学をなして、わずかな領地を統治し、もはや名ばかりの公爵の名前を飾りつつ、あきらかに清貧な生活を送り始めた頃だろう。]