― 駐屯地の異変 ―
[その日は規定の起床時間より早くから、やけに慌しかったろう。
上級職が難しい顔で方々を駆けては会議室に籠もっていく。
緘口令が敷かれても人の口に戸は立てられない。
『敷地の外れでローゼンハイム少将の死体が発見された』と
間もなく駐屯地内の人間の耳に入った事だろう。
現場はすぐに片付けられたが、数名は目撃したかもしれない。
亡骸の上には彼がよく持っていた薔薇の花が添えられ、
胸部を中心に食い荒らされたような痕跡と
肉片及び心臓などの内臓のいくつかに明らかな欠損が見られた。
致死傷は喉を鋭利なもので数回裂き抉られたもの。
周りの地面は血で染まっていたという。
それはさながら獣による食事にも似て。
過去の記録にある狼化病発症者が起こしたものと類似していた。**]