───カサリ。
[乾いた草葉を踏み分ける音に気付き、目を開ける。]
……エレ、ちゃん……
[音がした方向──ちょうど頭上にあたる──に視線を向ければ、よく知る村の霊薬作りの家の少女の姿を捉える。
彼女の視線が女の顔を捉えた瞬間、その表情が笑顔から不安げなものに代わるのを見れば、女は起き上がり困ったような笑顔で小さく首を傾げた。]
この奥に、お薬になる葉があるんだっけ……?
[今更隠せない目の下の痣を誤魔化すように、いつか此処で出会った時に、少女が言っていたことを口にする。
何言か交わした後に、薬師の少女は持っていた小さなポーチから小さなケースを取り出し、そっと女の右目の下に薬指を這わせる。
その指に応えるように、そっと目を閉じれば、ツン、と独特の草の匂いが鼻をついた。
熱を持っていた筈の頬はすっかり冷え、触れる指先の温かさが心地よい。]