― ベルサリス学館 ―[戸棚の中、何かが軋むような小さな音がした。ごく微かな、溜息のような音。その音は、部屋の空気を揺らし、男の耳に届いた。戸棚に歩み寄り、戸を開く。並んでいたのは35年前のあの日の日付が書かれた蒸留酒《スピリッツ》とふたつのグラス。ナミュールが開かれたら飲もう。約束していたグラスのひとつが、静かにひび割れていた。]**