[ 彼の腕の中には、すでに生気を失った
きっと彼の大切だったであろう人物がいて。
そのふたりに、あたしは先程まで
まさに、対面していたと言うのに。
白鷹の舞うのを見た時に
リヒャルトの叫び声を聞いた時に
どうして、中庭に走れなかったのか
どうして、門へ駆けつけることを選んだのか
門へ駆けつけたところで
あたしは何もできなかった。
それどころか、
目の前で総督が亡くなるのを見た
それを葬ったのはほかでもない、
あたしが、憧れた先輩のひとり。
あの時、それでも王子の生命をと
中庭に向かっていたのなら。
否、軍を少しでも向かわせるよう
気を回せていたのだとしたら。
結末は、少しでも違っていたかもしれなくて。]