[物心ついた頃から、実父はいない。
最初からいなかったのか、物心つく前にいなくなったのか、離婚なのか死別したのか。母は何も語らない。
母にとって良い思い出はないのか、わざわざ話す事ではないと思われているのか。
生まれた頃から傍にあった、ピンクのうさぎのぬいぐるみだけが、自分と父を繋ぐ――かもしれないものであり、ともだちだった。
ホステスをしていた母は、店の常連だった金持ち客に目をかけられて結婚。
小学3年のとき、それまで名乗っていた箕土路から姓が変わった。
ぼろぼろになったともだちは、お嬢様には不似合いだからと母に棄てられた。
ブランド物の服を着るようになり、成績が上がり、顔色も以前より良くなった。
けれど以前は母子家庭、今はセレブ。どとらにしても周りから浮いていた少女の、大人しく人見知りする性格は、ずっと変わらない。
更に小4での10歳の誕生日を境に、思春期を迎えたのか、男子との接触を極端に嫌がるようになり、高学年期は周りから「お高く止まってる」と評されていた。
“父”の進言通りに進学した女子中には、“お嬢様”も何人かいる為、現在は浮くような事はなくなっている**]