[手紙を受け取りシャツのポケットへとしまう。>>7
カスパルの問いかけに長く沈黙した後、
手についた血液を落とす作業の合間に少しずつ言葉を零した。]
“私”は知りたかったの。
童謡の羊が泣いた理由を。その気持ちを。
羊と狼両方の気持ちを知って生まれ変わったら、
優しい人になれるんじゃないかって。
……“ドロシー”は優しい人になりたかったのよ。
[無実の人を死に追いやりはしない。
最後に謝罪をくれた狼に罪を突きつけて死ぬのではない。
そんな人間でいたかった。
だけど魂の記憶をなぞるように
罪のない少女が自らの命を断ったと聞いても。
優しい輪廻を教えてくれた青年を喰らったとしても。
私の心は記憶の中で感じたものと、異なる思いを抱けない。
昔も今も、胸の奥が苦しいだけ。]
カスパルは、あの羊の気持ちが分かる?
……私はもう分かっているのかしら。
[聞いて応えはあるだろうか。
ドロシーにも分からない事を聞かれて困るかもしれないが、
答えがどうあれ言葉がほしかった。
分かっているでもいないでも、したい事は決めている。*]