─ 『神魔の領域』・外周の森 ─
[森を進む中、幼い頃の思い出がいくつか過る。
それは、気配がない中を一人というある種の退屈を紛らわす為の無意識もあるのだろうが]
……しかし。
よりによって、この花、か。
[空から手元に舞い降りた花の形が、あの時彼のようだと思ったそれと同じだったから、もあるのだろう。
すらっと真っすぐ立っていて、それでいてキラキラとした赤い瞳が朝露に光る紫羅欄花に似ていると思った。
今となっては、もうそんな風には思えない───むしろ、もう、会いたくもない。
複雑な思いを抱きながら、それでもあの頃の思い出同様無碍に扱うことも出来ず、壊れもののようにそぉっと、ハンカチに包んで胸のポケットに挿したこの花と同じものを持つ者が誰なのか。
進んだ先で分かることになるとは、まだ思いもしないまま歩を進め続けるのだった**]