[柊の匂いがした。 甘ったるく、やや人を酔わせる香り。金木犀ほどは強くないそれは、彼女の顔を少し綻ばせる。>>#1どこからかの声に、彼女は顔を曇らせた。幼い頃に事故で言葉を失った彼女にとっては、言葉を発せないという点において違いがなかったからだ。どちらでも変わらない、彼女はそう思ったが、その言葉が紡がれることはない。不意に空からの冷たい吐息を感じ、ふんわりとした甘さは掻き消える。ああ、冬の匂いだ。彼女は、そう感じた。]