[頬を撫でる風に誘われるように顔を上げる。青く澄み渡る空は祝いの席に相応しく思えた。軍功を上げた軍師の屋敷。かの庭園で歓談する大人達。挨拶を済ませ手持ち無沙汰となった少年は、両親のもとを離れ、見事な庭を散策していた。ザ、と一際強い風が吹く。色とりどりの花弁が空を舞う。その向こう、紫苑の眸に映り込んだのは端整な顔立ちの子供。これまで聞こえていたざわめきが消える。時が止まったかのような感覚。一目見て、心を奪われた。運命なる瞬間があるとすれば、それは今なのだろう、と思う。]