[だが、まだ動くべき時ではない。
自分の所在を知られていないのが、今は一番の強みだ。
直情で動いても良い結果を得られないのは、先ほど実感したとおり。]
そなたが入った場所とは違う方角から出るとしよう。
全ての道を押さえられていたら難しいが、そこまでの人員は割いてはいまい。
数日森の中に潜んでやり過ごせればなお良いのだろうが、これ以上神域を騒がせるのは畏れ多いな。
試練に敗れた以上は、早急に退去すべきだろう。
……1日程度は許されるだろうかな。
この森であれば、余人の目を気にすること無くそなたとの積もる話を――― いや、神域すべて、神魔の耳目の届く場所であろうな。
[思考をそのまま言葉にしながら、手綱を乳兄弟に委ねてゆっくりと馬を進める。
不思議な風の力でいくらか動けるようになったとはいえ、未だ本調子ではないのだ。]