―船縁→霊安室―
[それからどれくらい経っただろうか。
涙の跡を拭いもせずに男は暫く其処にいた。
やがてのろのろと動きだした男は、止血に使った上着を軍医の遺体にかけて霊安室へと運ぶ。
薄暗く、ひんやりとした其処には>>2:163シーツのかかった遺体が一つ。
恐らくはカシムのものだろうと思い、シーツはそのままに。
男はその隣に軍医の遺体を寝かせ、カシムに倣ってシーツを被せる。]
――カシム。軍医殿…。
…参謀に、砲術長まで。
[海に身を投げた彼らの遺体の回収は難しいだろう。
男は小さく息をつく。]