― 追憶 ―
[翠色の長い髪。豪奢なドレス。そして赤く丸いトゥの靴。
それは昔々、まだ物の道理も知らなかった頃の自分の姿。
…オルヴァル。
地図から失くなって久しい国の名前を、海の香と青さに思い出す。
潮の匂いは好きではない。
優しかった祖父が祖国に潮と硝煙と火薬の混じった風が吹いた日にすっかり変わってしまったから。
祖国オルヴァル。小さな島を幾つか抱えた国に生まれながら、国境の隔たりなく武器を売り捌く"ユルド社"の会長であり、一線を退いても自社や家族関係に甚大な影響力を持っていた。
自分の住んでいた自家にも祖父に商談を持ちかけに態々遠方から人が来るほどで、時には自分と同じ年頃の子どもを連れていることもあった。
そんな時は遊んだり話し相手を仰せつかることも、希に。]